「ヒロはアリゾナで、
新しい自分になったのではない。
少し前の、ちゃんと感じていた自分に戻っていった。」
人はときどき、
知らない場所ではなく、
必要な場所へ向かっている。
ヒロがアリゾナへ来た理由を、最初はうまく言葉にできなかった。Grand Canyon が見たかったから、Sedona の赤い岩に惹かれたから、Route 66 を感じたかったから。どれも本当だった。でも、どれも少しだけ表面的だった。本当はもっと静かな理由があったのだと思う。ヒロには、アリゾナのような場所が必要だった。
東京でも、都会でも、忙しい仕事の中でも、人はちゃんと生きていける。予定をこなし、会話をこなし、日々を前へ進めることはできる。けれど、その中で少しずつ失っていく感覚もある。深く呼吸すること。何も急がず景色を見ること。空の大きさに圧倒されること。言葉の数を減らしても満ちる時間を持つこと。アリゾナは、そういう感覚を静かに返してくれる土地だった。